2024年11月18日
於:富山県高岡市 御旅屋セリオ
2024年1月1日の地震に続き、9月21日の洪水で大きな被害を受けた奥能登。これまでにも、多くの方が義捐金や現地ボランティアで復興支援をされたと思います。一方で、募金以外でも何か被災地の役に立ちたいが、情報がなくどのような活動が求められているのかが分からないという方も多いと思います。筆者もそれで長い間悶々としていた一人です。
仕事がひと段落した10月末、自分にできる支援活動を探していたところ、富山大学芸術文化学部の安嶋是晴(やすじま・ゆきはる)准教授と学生の方々が主体となり、地震や洪水で汚損した輪島塗を洗浄するボランティア活動をされていることを知り、参加させていただきました。
「できるところからできる支援を」
洗浄会場となっている御旅屋(おたや)セリオは、高岡駅から徒歩10分ほどの複合商業施設です。この施設の6・7階に能登から運び込まれた漆器が保管されており、洗浄作業は、かつて食品スーパーが入っていた地下1階のスペースで実施しています。
2024年11月現在、洗浄対象となっているのは江戸時代から続く大崎漆器店と、創業70年余りの市中漆器工房の塗り物です。
被災後の生活再建が優先される中、輪島塗業界の復興は途に就いたばかりということで、混乱が続いています。そのような中、安嶋准教授は「公平さよりもできることからできる支援を」ということで、被災した上記塗師さんの漆器洗浄活動をされているとのことでした。
輝きを取り戻す漆器
当日活動に参加されていたのは、安嶋先生と学生さん、既に参加経験のある方・初参加の方含め14~15名。活動は朝9時に集合、16時までですが、部分的な参加も可能です。初参加メンバーは先生から簡単にオリエンテーションを受けたあと、各持ち場に分かれて活動します。
施設6・7階の保管庫には、洗浄を待つ漆器と、洗浄を終えた漆器の入った木箱や段ボールが所狭しと積まれています。保管庫に入ると、おそらく汚泥の臭いと思いますが、少し硫黄のような臭いがしました。ここから箱ごとに漆器を搬出します。
初めて見る器物や漆器の扱い方に戸惑いながらも・・・
「炉縁※」「煙草入れ」など、初めて見る器物もあり、蒔絵や沈金で美しく装飾された豪華な漆器も多く、他のボランティアさんと「これは何だろう?」「お水に浸けてても良いのかな?」などと話しながら作業をしました。
※炉縁(ろぶち)・・・装飾や火気の防止のため、畳に切った炉の炭櫃(すびつ)にはめる木枠
被災地の現状を知る
現地作業も
11/23(祝)には、安嶋先生のグループがボランティアバスにて輪島入りし、現地作業が行われました。筆者は予定があり参加ができなかったのですが、高岡で一緒に作業した方で現地作業にも参加された方がおられ、活動内容を共有いただきました。
現地では、深見地区の廃校になった小学校で地域の復興活動を行っておられる「NPO法人紡ぎ組」の方の、復興にかける熱い思いを伺ったり、洗浄対象となっている漆器を制作されている「大崎漆器店」さん、味噌や醤油の醸造蔵が大きな被害を受けた「谷川醸造」さんの見学もあり、能登の歴史的・文化的な背景を知る機会もあったとのことです。やはり、現地の状況はニュースだけではなく実際に見てお話を伺わないとわからないとおっしゃっていました。
ボランティア参加者それぞれの思い
高岡での活動のお昼休みに、参加者の間で自己紹介をさせていただく時間がありました。参加者の多くは富山在住で、被災地のために何かできることをしたいという思いでこれまでにも漆器の洗浄ボランティアだけでなく、現地入りして支援活動をされたことのある方々でした。また、義実家が輪島にあり元旦に被災された方もおられ、倒壊した蔵や、そこから漆器類を救出した様子を写した写真を見せていただきました。かつては冠婚葬祭の度に個人宅で使われた漆器も、近年では自宅に人が多く集まる機会が減ったため使われなくなっている現実がありますが、救出された漆器類が高齢者施設や学校に送られて食事の提供に使われ、その特別感が喜ばれているというお話も伺いました。
実際に現地で支援活動を行っている方、被災された方が復興支援に関して共通して感じられていることは、もう少しマネジメントが上手く行っていれば、必要な人に必要な支援を、またより質の高い支援を提供できるのにということだったかと思います。例えば、お弁当の配布を知らない高齢者のために、近所の方が代わりにもらいに来たが、ルール上1人1個しかお渡しできなかったり、入浴所が避難所から距離のある場所に設営されているために、戻る間に湯冷めをしてしまったりということです。震災後はインフラが寸断されており、情報収集も難しく包括的な支援が難しかったことは容易に想像できますが、考えさせられるお話しでした。
能登文化を後世につなぐために
今一番求められている支援は倒壊した建物の解体やインフラの復旧、住宅・店舗の片付けだと思いますが、能力的・体力的にこのようなお手伝いが難しい方も多いと思います。筆者もその一人ですが、今回輪島塗の洗浄ボランティアに参加させていただいたことで、主体的・継続的に活動されている方々とのつながりもでき、何より地域復興に対する関心をより高めることができました。寄付やボランティアはもちろん、地元産品を購入することでも被災地域の経済を支えることができます。神話の時代から続く能登地域と文化を後世につないでいくために、できることを一つ一つ行うことが大切だと思います。
輪島塗イベント情報
2024年11月30日(土)~12月2日(日)まで、東京ドームホテル5階 初音の間にて、倒壊した土蔵から救出された大崎漆器店の商品の展示販売があります。また、同じ期間に東京ドームシティ・プリズムホールで開催される「テーブルウェア・フェスティバル2024」では、「能登復興応援企画」として珠玉の輪島塗が展示されます。
近くの方はぜひお立ち寄りください!