▲写真(上):ハンカチーフにふっくらと刺繍された愛らしい小鳥。花や花籠の表現も非常に手が込んでいることがわかる
汕頭に匹敵する精巧なヴェローナのハンカチ刺繍
日本では、精巧なレース刺繍として中国の汕頭(スワトウ)刺繍が有名ですが、かつてヴェローナで作られていたレース刺繍も非常に手の込んだ美しい手工芸です。多くは、ハンカチーフなどに加工されて、貴婦人たちの装いを彩りました。
展示されていた刺繍ハンカチーフには、ヴェローナのシンボルである建物があしらわれています。
▼967~1398年にかけて建設された、サン・ゼーノ教会。
建物写真出典:Wikimedia, (c) Andrea Bertozzi
▼ポンテ橋(最初の完成は紀元前100年、戦後の1957年に再建)、聖アナスタシア教会の尖塔(左、1280-1400年に建設)、ランベルティ塔(右、1172年建設開始)のモチーフ
建物写真出典:(ポンテ橋とランベルティ塔)Wikimedia, (c) Andrea Bertozzi, (聖アナスタシア教会)Wikimedia, (c) David Monniaux
▼カステルヴェッキオ(1354-1376年 建築)のモチーフ
建物写真出典:Wikimedia, (c) chensiyuan
▼サン・フェルモ・マッジオーレ教会(8世紀に建設開始)のモチーフ
建物写真出典:Wikimedia, (c) Andrea Bertozzi
絵画と見まごうような、精巧な刺繍画
展示室には、いくつか絵画作品が飾られているのですが、説明を受けなければ絵具で描かれた絵画と思ってしまうような、非常に精巧な刺繍作品もありました。
この作品は、一番手の込んでいる部分で7層の構成になっています。前編の記事でご紹介した、多様なトーンで染め分けられた糸で、陰影や濃淡を表現し、立体的な作品に仕上げられています。
貴族の館に彩を添えた、精巧なシルクフラワー
この博物館で素晴らしいのは、刺繍だけではありません。おもに貴族の館や礼拝堂を飾るために作られたシルクフラワーは、刺繍作品に負けず劣らず、一つ一つのパーツが非常に精巧にできています。
ヴェローナのシルクフラワーの出来栄えを伝える、こんな逸話も残されています。
1856年、バイエルンの薔薇と呼ばれたオーストリア皇妃エリーザベトは、ヴェローナのシルクフラワーでできた花束を生花と思い込み、香りを嗅ごうと顔を近づけたところ、それがシルクで作られた花であることにようやく気づいたということです。
イタリアでも、伝統技術の継承が課題
また、博物館の別室では、織り物や刺繍の技術で制作されたドレスなどの当時の服飾品や、生活用品、織機なども展示されています。
残念ながら、ヴェローナではすでにシルク生産は1960年代に途絶えてしまい、この博物館で展示されているような手工芸品は、地元の有志グループの方の間のみにて技術継承が行われているとのことです。
今回、この博物館に案内してくださったFederico Bugnoli氏は、ヴェローナ大学で生物情報学を専攻しており、将来ヴェローナにシルク産業を復興したいという夢を持っておられます。日本にはまだ、いくつかシルクの産地が残っていますが、日本産シルクは現在流通しているシルク製品の0.2%に過ぎないということです。皇后御親蚕で知られる「小石丸」という蚕は、奈良時代(8世紀)から飼育されている伝統種で、糸の強度が高く染色しやすいことで知られています。飼育が難しく繭も小さいことから生産性に課題はありますが、特性を活かした製品の開発が期待されます。